アジャイルのためのエクスペリエンスマッピング

個人の実体験をプロセスで理解し新たな視点で優先順位を特定する
Contributed by

Karen Batt

Published July 23, 2021
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概要

エクスペリエンスマッピング(もしくはジャーニーマッピング)は、個人やチームの視点から、プロセスの各段階や特定の重要なステップにおける感情的な反応(思考や感情)に焦点を当て、プロセスとその中で誰かが歩む旅をグラフィカルに表現するために使用します。この手法は、UXデザインにおいて、潜在的な顧客体験を評価するための仮想シナリオに多用されています。また、アジャイルプロジェクトにおいても、既存のプロセスを実際に使用する人々やチームを巻き込む際に、多くの価値を発揮します。

メリット

プロセスの開始から終了まで、個人やチームの感情的な経験をマッピングすることで、対処すべきリスク領域や痛みのポイントを特定できるようになります。優先順位を評価する際に役立つ情報を提供したり、誤った前提を明らかにすることも可能になります。また、機会を特定するのにも役立ちます。このプラクティスが作成するマップにより、アジャイルチームと利害関係者は、プロセス体験の質を向上させるために具体的にどのようなことに取り組む必要があるのかを一目で確認できるようになり、部門を超えた連携と集中が強化されます。また、優先順位付けと意思決定に重要な情報を提供します。

実施方法

バリュースライシングと同じように、プロセスの主要ステップを初めから終わりまで洗い出すことから始めます。

プロセスが長く複雑な場合、ステップを例えば「新規ユーザーの作成」といったフェーズにまとめると役立つことがあります。バリュースライシングやイベントストーミングのプラクティスでも行われる方法です。フェーズを作成することで、ウォーク・ザ・ウォールやスプリントレビューのような活動に直接参加していない人でもマップを理解しやすくなります。また、このプラクティスをいくつかのセッションに分割して実践することが簡単にできるようになります。

ステップを洗い出し、必要に応じてフェーズにまとめたら、個々のステップに戻り、各人の経験(感情的な反応、つまり思考や感情)を洗い出します。経験を表現する方法は様々あります。適切な方法はプロセス、関与する人の数、このプラクティスが行われている文化や状況、プロセスが個人やチームメンバーにとってどの程度問題があるかなどに応じて異なります。:

  • ひとつの単語
  • 短い文
  • 絵文字(選択肢を限定する場合もあるし、多くの選択肢を提供する場合もある)
  • 数字(1~4または1~6で、1がマイナス、4または6がプラス。選択肢の数を偶数にすることで、肯定的と否定的のどちらかを選択してもらうことができる)

エクスペリエンスマッピングが最もうまくいくのは、ただ推測するのではなく、実際にそのプロセスを使用している人たちに参加してもらったときです。アジャイルを効果的に実践するためにはバイアスを取り除くことが本当に重要です。開発チームに自分たちのソリューションを使っている人がどう感じるかを聞いても、正確な評価が得られるとは限りません。

プロセス全体に対する経験の洗い出しが終わるまで、個別の経験に関する議論をしないようにしましょう。洗い出しが終わったあとに短い休憩を取ると良いです。その後は洗い出した経験を見直します。マッピングしたプロセスによっては多くの議論が巻き起こるかもしれません。参加者が自分の経験をオープンに共有できる安全な雰囲気を作ることに努めてください。自分の意見を他人にさらされる場所に打ち明けるのは勇気がいることです。

ひとつのステップについて話し合いが終わったら、ファシリテーターは経験を整理してまとめることが重要です。大きなポストイットを使い、共有されたすべての経験の下に配置します。まとめ方は経験を表現した形式によって異なります。要約する言葉や短いフレーズ、絵文字、色、数字(全回答の平均値)などとしてまとめることができます。

エクスペリエンスマップは、ホワイトボードの下部に描かれ、プロセス全体、さらにはプロセスのサブセット内で経験がどのように変化するかを視覚的に示すものです。エクスペリエンスマップはX軸とY軸を持つシンプルなグラフです。X軸にはステップが時系列順に並べられます。Y軸は経験に紐づく感情を表していて、上がポジティブ、真ん中がニュートラル、下がネガティブであることを示します。

特定のステップの経験を言葉としてまとめていた場合、Y軸上の位置を決めるのが難しくなります。しかし、エクスペリエンスマップを作成するためにはどこかを選ばなければいけません。

エクスペリエンスマップは、各ステップの話し合いが終わったあとに段階的に作成していくこともできます。しかし、各サブセットやセッションの最後に作成する方がインパクトがあることが多いです。できるだけ偏りのない思考や感情に関するコメントを得るために、グラフを導入する前に参加者から経験を洗い出すことが重要です。

所要時間に関する注意点

エクスペリエンスマッピングの所要時間は次のような要素に左右されるため、一概に言えないのが実情です。:

  • ステップの数、プロセスの複雑さ
  • 参加者の数
  • 経験自体の強さ

強い感情的な反応を引き起こすプロセスでは、議論の時間を増やし、特に痛みを伴う部分を議論した後は休憩時間を増やし、効果的に進めるための機転とリーダーシップが必要となります。しかし、このようなプロセスでこそ、エクスペリエンスマッピングから最も大きな利益を得ることができるのです。

エクスペリエンスマッピングに関する注意点

エクスペリエンスマッピングでは、例えば、電子メールやプルリクエストなど、プロセスの各ステップにおいて、誰かがどのようにやり取りをするのかについての詳細な情報が含まれることがあります。これらはタッチポイントと呼ばれます。 特定の経験をより詳しく説明するために、グラフの下に顧客から反応を記録することもあります。

アジャイルのほとんどのことに言えることですが、どの情報が最も重要であるかに焦点を当てることが、効果的であるための鍵です。

実施例


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